NIPPAN Conference 2021開催報告 ~100年続く出版流通の未来に向けて~
日本出版販売株式会社(代表取締役社長:奥村 景二、略称:日販)は、“これからの出版流通の100年”を構築するための取り組みである「出版流通改革」の方針発表として、5月28日(金)~6月11日(金)の期間で、NIPPAN Conference 2021をオンラインにて開催しました。
本来であれば、お取引先に向けて、出版流通改革について直接発表させていただきたいところではございましたが、新型コロナウイルスの猛威がいまだ収まらない中、感染拡大のリスクを鑑みて、リアルでの開催を中止しました。
当社経営陣のプレゼン内容を事前収録した動画をお取引先に配信し、約180社の出版社様と約120社の書店様に視聴いただきました。動画の内容につきましては、下記3パートで構成されています。
①基調報告(日販グループホールディングス 代表取締役社長 吉川 英作)
②出版流通改革の方針(日販 代表取締役社長 奥村 景二)
③改革の具体的なプラン(日販 取締役副社長 安西 浩和)
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以下、動画内で説明した出版流通改革の方針とプランの概要です。
<出版業界における構造課題>
2020年度はコミックスの売上増加や巣ごもり需要という特需があり、書店様店頭は活況を呈しました。しかしながら、かねてより課題となっている出版流通における運賃問題は現在も継続しています。日本の物流全体に起きている運賃高騰に、出版物の物流量減少が組み合わさって効率が悪化し、運送会社様は経営難に見舞われています。それにより、運賃値上げが発生し、さらなる効率悪化を引き起こしているという構造です。
当社における送品高運賃構成比(送品高に占める運賃の割合)は現在も上昇基調が続いており、また1冊の本をお届けするために必要な運賃についても、業量の減少に比例することなく、2014年度と2020年度の比較で、約5円も上昇しています。
<出版流通改革の方針>
〇100年先の未来にも、街に書店様と本があり続ける世界をつくる
当社の考える出版業界のあるべき姿は、出版物の多様性を守ると同時に、書店様が儲かる構造をつくることです。当社は創業以来、文化を担う出版物を、そこから生まれる心の豊かさを、読者に届け続けてきました。これからも良い本がつくられ、全国に本と出会う場があり、1冊1冊がしっかりと読者の手に届く。こういった当たり前の姿を守っていきたいと考えています。そして、100年先の未来にも、街に書店様と本があり続ける世界をつくるという想いを持って、出版流通改革に取り組みます。
〇キーワードは「オープン」
当社が掲げる出版流通改革は、物流協業や拠点統廃合などの取次自助努力によるコスト削減に加えて、「取引構造改革」と「サプライチェーン改革」を柱に、出版社様・書店様・取次のビジネスが成立し、紙の出版物を全国へ流通し続けられる状態をつくることを目指します。
単品レベルのマーケット情報をネットワーク上で共有し、市場ニーズに基づいた生産・流通・販売を実現する戦略として「www.project(トリプルウィン・プロジェクト)」を2001年にスタートさせました。業界3者が「オープン」な環境で情報を共有することで、プロフィットを生み出しシェアしていくという思想は、当時も今も変わりありません。「オープン」というキーワードのもと、当時の思想を現在のテクノロジーを使って進化させること、そしてその範囲をより一層広げていくことを志向しています。「オープン」な姿に変えていくものは、「データ」と「配送」です。この2つのテーマに取り組み、「取引構造改革」と「サプライチェーン改革」の実現を目指します。
<取引構造改革のプラン>
〇新たな「PPIプレミアム」で、書店様のマージン30%を実現する
本を読者の手に届け続けるために、本と出会う場を守り続けるために、書店様の収益を改善し、経営が成り立つようにしていきます。当社の発注サポートサービスを用い、低返品・高利幅スキーム「PPIプレミアム」を拡大するとともに、当社も返品のリスクを負担する新たなスキームにも取り組むことで、返品率15%以下、マージン30%を実現します。
〇オープンデータプラットフォームと需要予測で、流通を最適化する
オープンデータプラットフォームの拡張と需要予測が、取引構造改革のもう1つの柱です。これまで、出版社様、書店様と作り上げてきた「オープンネットワークWIN」を拡張させ、その価値を高めていきます。今後、返品削減をさらに推し進めるための武器とするべく、拡張したWINに、AIやテクノロジーをかけあわせて、より精度の高い需要予測を実現させ、限りなく返品の出ない流通の構築を目指します。
<サプライチェーン改革のプラン>
〇配送コース再編により、現地配送の効率を向上させる
出版配送における最大の課題は、現地配送の効率の悪さです。現地配送積載率は、平均すると4割程度に留まり、実に6割ものスペースで、空気を運んでいる状態とも言えます。この状況を打破し、出版配送を持続可能な形にするためには、制約となる条件・ルール(店着時間指定など)を緩和して柔軟な配送を実現させる必要があります。例えば、納品の許容時間を広げていただき、書店様とコンビニエンスストア様へ一度に配達できるコースを増やすことで、今より効率的な配送を行うことができるようになります。外部の知見も得て実施した当社のシミュレーションでは、全国約2,000コースのうち、積載率が低く、走行距離が短い64%のコースは、改善できる可能性があるという結果が出ています。最も効率が良くなる配送コースへと組み替えるために、運送会社様に協力を仰ぎながら、地域ごとの細かい配送効率調査を進めていきます。
〇配送をオープン化し、運送会社様の運行効率を向上させる
配送の制約となる条件・ルールが緩和されることで、本以外の商材の取り込みや他業種配送への乗り入れも可能になります。出版配送には、多様な出版物を日本全国に届けられるという大きな価値があります。これを持続させるために、他の商材を取り込んだり、他の業種の配送に乗り入れたりという選択肢を柔軟に組み合わせながら、配送をオープン化し、運送会社様の運行効率向上を図っていきます。
配送のオープン化と、上記のコース再編により、たとえ出版物の流通量が減少し続けたとしても、これ以上効率が悪化しない状態を目指します。そのためには、出版社様、書店様、コンビニエンスストア様、運送会社様、すべてのプレイヤーが協力し、条件・ルールを変えることが必要となります。皆様のご理解とご協力を得ながら、改革に取り組んでまいります。
当社は今後、定期的に出版流通改革の進捗をお伝えしていく予定です。データと配送をオープンな姿に変え、そこにテクノロジーを掛け合わせていくことで、100年先の未来にも、街に書店様と本があり続ける世界をつくってまいります。
■本件に関するお問い合わせ
日本出版販売株式会社 社長室広報課 担当:吉野
TEL.03-3233-3829 FAX.03-3233-6045
E-mail:press@nippan.co.jp